では続きを。
9時55分 おりは駅のベランダのような所の椅子にすわっていて、即座に自分がタゲられたのがわかった。 年齢60頃と思われるおやじに睨まれた。酒気を帯びているのは間違いなく、慢性的なものであることを悟るのに、5秒も必要としなかった。 彼は、あたりの人にやつあたりとも、話したくてからんでいるとも見えるしぐさをしつつ、まっすぐおりの所まで来た。 とげとげしく、意味不明な、まさにアル中の見本だった。 彼は煙草がしっけていて、火もないことを1分以上かけて、おりに伝えた。 おりは自分の煙草をさしだし火を点けてやった。 彼は自分のしっけた煙草を3本くれた。 彼は日記を書いていたおりに、ペーパーとペンシルという単語を使い、それを渡すように命じた。 彼は終始ぶつぶつ(言葉がわからなかっただけかもしれないが・・)いいながら、住所とおもわれる文を書いた。 そして 「しっかりしろ」「自分の事は自分でまもれ」 「めしはくったか」「酒はのんだか」 そういいつづけた。 彼は5分ほどかけておりの名前と出身を聞き出すことに成功した。 彼は前を通る人に容赦なくからんだ。 なぜかおりが彼を制止した。 出身が九州だと聞くと「りっぱな男だ」とほめてくれた。 更に「おれとデートいくか」ととんでもないなまりで言い放った。 気付けば、彼との会話の要所は、すべて和製英語で行われていた。 何故かおりは、この得体の知れない男に共感さえ覚えた。 しかしついて行くにも予定があり、あまりにもリスクが高いので「電車ですぐに帰らなければ」と伝えた。 「何か嫌な感じだな」 彼はそう言ったが、まぁがんばれよと、熱い握手と戦争に出向く息子を励ますようなスキンシップが飛んできた。 そしておりの煙草を箱ごと奪って、どこぞかへ消えていった。 周りの人は少なかったが、この10分ほどの出来事の最中に、一人としてこちらを見ずに通り過ぎる人はいなかった。 皆、笑みの一切も無く、あやしみ警戒の目でこちらをみていった。 この時点で、この町にきてから彼の笑顔以外見ていないことに気付いた。 ランサさんと会う約束もあり、帰りの切符を買って帰ろうとすると、電車はまだこないのでホームにも行かないように言われた。 せめてここから離れてホームで、ぼーっとしたかった。 駅員も全く愛想が無く、誰もおりを助けにもこなかったし(まぁ和んでたからかな・・)、観光地っぽかったが、最悪の町だと思った。 きっと彼と共感できた部分は、彼が周りの人に阻害視されていたからではないだろうか。 そして彼に自分の弱さを見透かされ、勇気づけられた。 気持ちのわだかまりを、ほぐしてくれた。とんでもなくあやしい彼が。 あの得体の知れない男によって、自分の腐った心が再生して行く気持ちにさえなっていた。 その駅から1歩も外へ出ていない。雨が降っている。およそ1時間に1本の電車があるだけ。 何かがおりの帰りも前進も阻んでいるように思えた。 全てが運命めいたものであると、生まれて初めて感じた。 ここに来るべくきて、用意されたアトラクションに参加した、そんな気がした。 とても普通ではないが、自分でも理解できないが、 確かに目的は達成された。 10時41分 たったさっきの考えを撤回したくなった。駅のスタンプをおしていると、駅員はインクを持ってきてくれた。 そして、笑った。 私は警戒されていたのかもしれない。 たった10畳ほどで、駅員と土産屋いれて5人もいないの駅のロビーで、電車から降りて30分もしないうちに帰りの切符を買って帰ろうとした。 あやしかったろう。 あいづたじまに謝罪します。すいませんでした。 その後は温泉よりも何よりも、駅内の椅子のほうが元気がでるような気がしてずっとすわっていた。 今は、この街が自分の分身にすら思える。 11時06分 電車はおりを乗せ、郡山に向かい出発した。 続く
by watipikannte
| 2005-09-15 05:47
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